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なでしこジャパン世界一!

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 7月18日(月)20時15分6秒
  今日は朝からこのニュース一色でしたね。
最後まであきらめず、全力で戦う彼女たちの姿に感動しました!

某テレビ局がドイツにいる選手たちに生でインタビューしている番組をみました。

予算の都合か機材が間に合わなかったのか、選手一人一人にイヤホンマイクが支給されているわけではなく、日本のスタジオからの質問を現地レポーターが取り次いで、選手に聞くという形でした。
音声が届くのにかなりのタイムロスがあり、もどかしかったです。

そんな時こそモニター一台を選手全員の前に置いて、日本のスタジオからの質問を要約筆記して映し出せば簡単に同時通訳できるのになあと考えてしまいました。

そんなこと、この業界(?)に関わっている人でないと思いつかないか?(^^;)
 

邦画の字幕

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 7月 2日(土)10時52分3秒
  7月1日、ついに大和郡山にも映画館ができました。
市の難聴協会から「邦画に字幕を」との要望書を出していましたが今のところ返事などの連絡はありません。

昨日、個人的に劇場内のスタッフにそれとなく尋ねたところ、「今は予定はないが字幕付き邦画を上映する時はホームページでお知らせする」と答えてもらいました。どこまで権限のある人の、当てにしていい返事がどうかは不明ですが、少なくとも無関心ではないようホッとしました。

しかし。

調べてみると、今郡山で上映している邦画「アンダルシア 女神の報復」も、他の地域では字幕付きで上映されるところがあるようです。

字幕付き邦画を上映している劇場を調べるサイト→ http://www.jimaku.info/movie/

ちなみに奈良では TOHOシネマズ橿原 8/6(土)、8/7(日)


これによると関西では他に、大阪3、兵庫2、京都1劇場で7月~8月にかけて持ち回り(?)で上映されるみたいですね。関西全部を合わせると、月曜から日曜まで網羅しています。

郡山もぜひともこの輪の中に入っていただきたいですね。

ということで皆様!

公の要望と平行して、イオン郡山に買い物に行くたびに劇場スタッフを捕まえて、

「ここでは邦画の字幕放映はないんですか?」

と必要性を訴える人海戦術を繰り広げていきませんか?(笑)
 

連ドラ6月号①

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 6月16日(木)20時56分26秒
  話したいこと、聞いてほしいことは次々と出てくる。たとえ100%ではなくても、ここでなら家では口に出せないようなことでも吐き出せる。家族に心配をかけたくない、迷惑に思われたくないからこそ言えない不安や不満、多少のグチなども聞いてもらえる。

「何が辛かったていうとね、やっぱりアレよ。家族団欒っていうか、会話に入っていけないことね。ご飯を食べながら話す内容なんてわからないでしょ。一緒にテレビを見ていても同じタイミングで笑えないし。」

「そうそう。何を笑っているのか、なんで笑っているのかわからないものねぇ。」

「今は字幕がついている番組も増えたけど、私が手帳をもらった頃なんか、ほとんどなかったし。」

「寂しいよね~。子どもとか主人と一緒に同じ番組を楽しめないんだもの。」

森川や安部の話は、まりこにとっても一つ一つ実感として感じられることばかりだ。

まさかこの歳で耳が聞こえなくなるとは想像もしていなかった。医者から、もしかしたらもう聴力は戻らないかもしれないと言われた時も実感がわかなかった。それが避けられない現実となり、何度も何度もこの世の終わりのような気分を味わった。「なんで私が?」という戸惑いと、どこに矛先を向ければいいか解らない怒り。感情がコントロールできず、泣き喚いたこともある。夫を、家族を傷つけるようなことも言ったかもしれない。そんな自分を気遣う家族の、まるで腫れ物にでも触るような態度も癇に障り、そのくせ聞こえなくなった辛さを理解されない、理解してくれないことにも苛立った。

家の中は常にピリピリとした緊張状態で、目には見えないどす黒い澱(おり)に埋め尽くされてしまいそうだった。家族はまりこをどう扱っていいのかわからず、まりこも又、どう扱われたいのか解らなかった。ただ「なんで?」というどうにも消化できない思いだけが堂々巡りし、死んだ方がマシだと思ったことさえある。

「まあ、それでも、今は随分マシになったわよ。特にコレ。」

森川はピンク色のクマのストラップがついた携帯電話を持ち上げる。

「そうだよねぇ~。今まではファックスが頼みの綱だったもの。外出してたりするとなかなか連絡がとれなくて困ったわぁ。今、駅とかでも伝言板ってないものねぇ。」

「こんなふうに簡単に文字でやりとりできる日が来るとは想像もしなかったわ。」


「けどさあ・・・」

安部は悪戯っぽくクスクス笑った。

「時々、意味不明のメール来ない?ワタシの文章もいいかげんだとは思うけど。」

森川も苦笑する。

「確かに。こんなことなら学生時代、真面目に作文書いておくんだったーって思うわね。短い文でのやりとりって、今までの人生でやったことないから。よけいなことばかり書いて、結局何が言いたいの?ってことも確かにあるわ。」

「その点、要約筆記者さんからのメールは簡潔ですよね。」

まりこが言うと、二人は顔を見合わせて笑った。

「簡潔すぎる感じもするけどねぇ。味も素っ気もない時もあるわよ。」

「電報か、って思うこともあったよ~。でもそれって、用件を間違いなく伝えようとしてくれてるんだろうから。ほら、私達って、文章力も大事だけどぉ、読解力も必要よねえ。回りくどい言い方だと、解らない時もあるから~。大事な事だけ、端的に伝えようとすると仕方ないのかもねぇ。」

「お互い、よく知っている間柄だし、もう慣れたけどね。」

 

連ドラ復活 その10

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 5月31日(火)19時24分41秒
  かつての遠山医院を開放した恵美子のサロンでは、火曜日限定だったランチタイムが木曜日にも実施されるようになった。火曜は今までどおり「青い空」のメンバーが中心だが、木曜のランチは浴衣パーティでフラダンスを披露した年配の近隣主婦が担当する。平均年齢73歳。高齢だがまだまだ若さとパワーを誇るベテラン主婦チームだ。

高齢者にとって「聞こえにくい」ということは他人事ではなく、身近な問題だ。それだけに「青い空」のメンバーと意気投合するのに時間はかからなかったし、夫に先立たれて一人暮らしの人も多い。自由な時間はあるが、一人で食事をするのはつまらないし、一人だと手の込んだ料理をつくる気にもならない。みんなでワイワイ言いながら作った料理を、誰かに美味しく食べてもらえるというだけでも楽しいらしい。

変化はランチだけではない。いつの間にかサロンの片隅に囲碁や将棋の道具が備え付けられていて、サークルメンバー以外の顔もちらほら見られるようになってきていた。玄関には掲示板が掲げられ、「○月○日○時より、手打ちうどん講習会」、「囲碁対局者求む!」といった各種のお知らせが貼られるようになっていた。

そんなある木曜日の午後。まりこはサークルで仲良くなった数人の難聴者と恵美子のサロンで待ち合わせ、昼食をとった。そしてそのまま、ティータイムへと流れ込んでいる。火曜日は忙しくてゆっくりする暇がないが、フラダンスチームが担当する木曜日なら、のんびりとお喋りが楽しめる。

例会では情報保障がついて便利なことも多い。しかし筆記者ぬきで話したい時もある。そんな時は各自が持っている携帯用ホワイトボードを駆使するのだ。

補聴器を付けている難聴者も多いが、補聴器は眼鏡やコンタクトのように、つければすぐに役に立つというものではない。よけいな雑音なども拾ってしまうし、体調や難聴の程度などによって聞こえ方も違ってくる。特に人の大勢いるところ、騒がしいところでは、肝心な音や声が聞き取りにくくなる。難聴者同士が話をするなら、できるだけ静かな場所が望ましいく、その点、恵美子のサロンは申し分ない環境だった。

「補聴器、試してる?」

娘の弥生に浴衣を譲ってくれた元着付け講師の森川が、まりこに話しかけた。

「家で少しずつ。でもまだ慣れなくて。すぐに外してしまいます。」

自身も失聴し、難聴者と関わることが多くなってきたまりこは、できるだ簡単な言い回しで用件を伝えるようになってきた。その方が自分の意思が確実に相手に伝わると解ったからだ。弥生からも「5W1H」を意識して話すようにと言われているが、これがなかなか難しい。

「慣れるまで大変だよね。私も眩暈(めまい)がひどかった。」

もう一人の難聴者の安部も同意する。少し間延びした喋り方をする、穏やかな人だ。

「私はね~、頭痛と吐き気よ~。何度、途中で投げ出そうと思ったか。」

「そういう人、多いらしいよ。慣れる前にあきらめちゃう人。」

「でもね~、今はもう、補聴器なしじゃ、怖くて外を歩けないわ~。」

まりこは最近、専門店で補聴器をフィッティングしてもらった。耳の穴にすっぽり埋め込む形式のものだが、すさまじい圧迫感があり、とても長時間使用する気にはなれない。だが、少しでも音が聞こえるのなら、やはりつけた方がいいのだろうか。

実は先日、庭で草むしりをしていた時に、まりこの周囲に蜂が何匹も飛んでいた。弥生が慌てたように手招きするので、そちらに向かった。蜂に気がつかなかったので、パニックを起こすこともなくゆっくり動いたから良かったが、ヘタをすると刺されていたかもしれない。

健聴者なら聞こえるブンブンという羽音が、まりこには全く聞こえなかったのである。蜜蜂くらいならまだいいが、これがスズメバチだったりしたら命にも関わる。

「あー、あるある。蚊の羽音もわからないよね。痒くなって初めてわかる。」

「雨の音もそうよね~。にわか雨に気づかなくて~、洗濯物、ぐっしょりさせてしまったこと、何べんもあったわ~。」

「私はベランダに屋根をつけてもらったよ。」

「電子レンヂの音とか、やかんのお湯の沸く音とかも、わからないと困りますね。」

「私なんか~、この間、素敵なキャリーバッグをね、リサイクルショップで見つけてね~。しっかりしているしぃ、すごく安くて、気に入ったから買って使ったんだけど・・・」

安部がその穏やかな顔を思い切り歪めた。

「転がす時にね~、すごい音がしてたらしいのよ~。『お母さん、何を引きずってるの!?』って、娘に叱られちゃった~。近所中に響いていたって~。きっと、だから安かったのね~。」

「うーん。そういうのって、私たちにはわからないよね~。」
 

連ドラ復活 その9

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 5月24日(火)22時15分7秒
  「青い空」のビアパーティ当日。遠山邸の二階、恵美子のプライベートルームでは着付けの講習会が開かれていた。元着付け師範であった難聴者メンバーの森川が講師になり、浴衣と帯結びの仕方をレクチャーするのを、リオを含めた比較的経験の浅い筆記者が情報保障していく。

「はい、それじゃ今のを思い出して、着てみてください。わからなくなったら手をあげてね。」

講師の森川の説明が終わると、それぞれが持ち寄った浴衣を広げ始めた。

「あれえ~、旅館のねまきみたいになる~っっ。」

「うわあ、なにそのピンク色、すごいハデ~!」

「今どきはこんなのものよ。娘のなの。外では着て歩けないけど、ここならね。」

「ちょっとちょっと。それは襟をぬきすぎじゃない?」

あちこちで交わされる会話も、いつもよりずっと華やいだ雰囲気だ。

「わあ~、リオちゃん、きれい!」

「青い空」では、こういうお楽しみ行事には家族の参加が普通に行われる。今夜も、筆記者や難聴者の子どもや孫がメンバーに交じっていた。

「やっちゃんこそ。それ、買ってもらったの?」

「ううん。森川さんが若い時に着てたの。お直ししてくれた。可愛いでしょ。」

「あ、私とおなじ。私のは遠山さんのだよ。お直しはなし。」

「色っぽ~い。」

「ふふふ。ありがとう。やっちゃんも可愛いよ。」

「若い子が落ち着いた柄を着ると、かえって若さが引き立つわねえ。」

ゴッドマザー恵美子も絞りの浴衣を端然と着こなし、満足げだ。

「私も何年ぶり?何十年ぶりかで浴衣を着ましたよ。」

麻耶も少々照れくさそうだが嬉しそうだ。

「それじゃ、この艶姿(あですがた)を下の男性陣にご披露しにいきましょうか。」

階下の宴会場では男性陣が今や遅しと待ち構えていた。初めて「青い空」の行事に参加する、まりこの息子の誠の姿もあった。

「おーっ、綺麗どころのお出ましやぞ~。」

総勢20人以上の浴衣姿は、年齢層に関係なく圧倒的な迫力がある。いつもは黒子のような服装が多いだけに、色とりどりの浴衣は華やいで、目に眩しいほど綺麗だ。

「やっぱり女の人の浴衣姿はよろしいなあ。」

「本当に。日本人に生まれてよかった~と思いますよ。」

以前リオ達がお茶を楽しんだ広い部屋の真ん中には3台のダイニングテーブルが置かれ、それぞれが持ち寄った料理が並べられている。各自思い思いに皿に料理をとりわけていくバイキング形式だ。

大きな寿司桶には恵美子心づくしの散らし寿司、皿の周囲をプチトマトで美しく彩った弥生とまりこのポテトサラダ、夏野菜をふんだんに使った天ぷらは、女性陣が着付けている間に男性メンバーが作った揚げたてだ。カボチャの煮つけ、焼き茄子や冷奴、冷やしトマト、そうめんなどに交じってパスタやピザもある。リオが用意したのは竹輪の穴にきゅうりやチーズをつめただけの軽いつまみだったが、これが予想外に好評で、若い女の子としての面目をどうにか保つことができた。

あちこちで楽しげな笑い声があがり、カメラのフラッシュがたかれている。宴もたけなわの頃、部屋の照明が二、三度点滅した。聞こえない人がいる場合の、何かを知らせたい時の合図一つだ。電灯のスイッチの所にいた恵美子に皆の視線が集まる。

それを待っていたように扉の向こうから現れたのは、ハワイアン衣装に身をつつんだご近所の老婦人方だった。

「うわっ。フラダンス?」

子どもたちが歓声を上げる中を、ハワイアンのリズムに乗ってダンスが始まる。ゆるやかな踊りと、カラフルで大きな髪飾り、美しい衣装が見る人の目を楽しませる。何曲かめには振りを真似て踊りだす者もあらわれた。

「これなら私にもできるよ。」

「私にだって。ほらほらっ。」

「うまい、うまい!」

アルコールの力も手伝ってか、いつしか男も女も、大人も子どもも、健聴者も難聴者も、誰もが腰を振り、手をくねらせて、陽気な一夜が過ぎて行った。

 

連ドラ復活 その8

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 5月16日(月)16時26分55秒
  誠の担任は数学を教えるまだ若い男性教師だった。まず、まりこは自分の聴力について説明し、パソコンの文書ソフトを利用することを了承してもらった。中途失聴者が聞こえない事を告げると、たいていの人は驚く。普通に話せる人が多いからだ。

「でも喋っているじゃないですか。聞こえてるんでしょう?」

と疑わしげに聞き返されることも珍しくない。相手の未知・あるいは無知からくる素朴な質問なのだ、悪気はないのだろうと自分に言い聞かせてみるが、無神経なその言葉は、刃のように心に突き刺さる。

しかし誠の担任は

「それはご不自由でしょう。」

と拍子抜けするくらいあっさりと、まりこの現状を受け入れてくれた。面談では、まりこは普通に話し、担任の発言は誠が十分に充電してきたノートパソコンに打ち込んだ。

昨夜二人で調整した、まりこの見やすい字体の、大きな文字が画面に次々に現れる。前もって志望校などの固有名詞は登録しておいたし、誠のブラインドタッチ(キーボードを見ずに入力すること)もスムーズで、思っていたよりずっとこの方法は有効だった。

ただ、弥生と違って誠は要約筆記を勉強しているわけではないので、聞こえてきた言葉は全部そのまま入力しないといけないと思っていたようだ。いわゆるケバ、「え~っと」などの意味のない発語や、急な話題の転換などもそのまま画面に流れる。そうするとどうしてもスクロールが速くなって読みきれず、時々話の内容がわからなくなることもあった。

まりこの様子に気づいた先生が、誠のノートパソコンを自分の前に引き寄せた。

「八尾君は自分の発言を打って。僕もそうするから。お母さんは普通に話してください。」

それからは情報保障というよりもノートパソコンを利用した筆談形式で話が進み、誠の成績に関する話も、こちらの質問に対する答えも、入力された画面を読むことでよく解った。中学三年生を担当する忙しい教師が、こんな対応をしてくれるとは。まりこは嬉しい驚きで一杯になった。

「本当に有難うございました。おかげさまで、とても助かりました。」

深々と頭を下げるまりこに、若い教師は

「いやあ、僕の方こそ。悪筆なので、書いてくれと言われたら困りますが、タイプなら僕にもできますから。こちらの方こそ、パソコンを用意してもらって助かりました。」

本当に安堵したことがありありとわかる、正直すぎる表情で頭を掻いた。まりこは苦笑する。

「書いてほしい」と頼んで躊躇われる一番の原因は、たいてい「字が汚いから」というものだ。リオたちのように要約筆記者になろうとするなら、ある程度は整った字が求められるが、日常生活ではほとんどの場合、読めればいいのだ。何が言いたいのか意味がわかればいい。そんな謙虚さはむしろ無用なのである。

「やっぱりママに来てもらってよかったよ。」

教室を出てから誠が言った。

「実はオレ、あの先生、ちょっと苦手だったんだ。」

中学校では小学校ほどクラス担任と深い交流があるわけではない。相互理解というものも、それほど進んではいないのだろう。

「だけど、なんか・・・その、思ってたのと、イメージ違った。その・・・良かったよ。」

若き数学教師・大西哲夫が、誠が密かに憧れるリオの前に現れるまで、まだもう少し時間がかかる。
 

連ドラ復活 その7

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 5月 9日(月)21時41分18秒
  まりこの息子・誠が通う中学校の校舎の三階。教室前の廊下に置かれたスチール製の椅子に座って面談を待つまりこの横で、誠がひざの上にノートパソコンを広げた。数日前に夫である誠一から誠に渡された物だ。会社の同僚が新しいパソコンに買い換えたのを譲ってもらったらしい。

今日の三者懇談には誠一が来る予定だった。誠は中学三年生。高校受験を控えている。親も子も初めての受験である事を考えれば、面談には健聴者であり、父親である誠一に行ってもらうのが一番良いように、まりこは思った。

派遣を申請すれば要約筆記者は来てくれるだろうが、今のまりこには要約筆記の限界も見えてきている。ノートテイクでは話の内容は伝わっても先生の一言一句を完璧に拾い上げることはできないし、まりこ自身も微妙なニュアンスを書かれた文章から正確に感じとれるかどうかもわからない。

それならば、自分より健聴者の夫の方がふさわしいと判断したのだ。ところが、誠一に急な海外出張が入り、どうしても面談には間に合わなくなってしまった。

「ごめんね、ママが行くことになって。」

そう誠に告げた時は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「なんで謝るの?」

誠はまりこの目を見てゆっくり話す。妹の弥生と違って口数が少ない。中学生になり、声変わりも始まった頃からは、母親と話すこともあまり無くなっていた。塾やクラブが忙しく、家族より友だちと過ごす時間が増えたことも原因だろう。だが、まりこが失聴してから、ますます誠と話す機会がなくなった。母親の失聴に苛立ちさえ感じているような気がしてならない。

「ママが聞こえてたらよかったんだけど。」

まりこの言葉に、誠は見るからに不機嫌になり、フイと目をそらせてしまった。

「仕方ないじゃん。」

ピピ~ッ!

悔しく情けない思いに沈みそうになったところに、鋭い笛の音が響いた。まりこには音そのものは聞こえないが、それでも伝わってくる振動からすると、かなり大きな音のようだ。ふりむくとホイッスルを持った弥生が兄の誠に人差し指を突きつけていた。

「お兄ちゃん、イエローカード! ぜんぜん言葉が足りてません!」

「なんだよ、それは。」

弥生はドカドカと足を踏み鳴らして誠に近づき、ちょっと意地悪そうな顔で兄を見上げた。

「リオちゃんが言ってたよ。コトバが足りないと、ママが誤解しちゃうって。」

リオの名前を聞いた瞬間、誠の顔が赤く染まった。弥生はそんな兄の変化にニヤリと笑いかけ、おもむろにまりこを振り返った。安心させるように、ゆっくりと、手話もつけて話しかける。

「お兄ちゃんが言いたかったのはね、聞こえないのは、ママのせいじゃないんだから、そんなこと気にしちゃダメだよ、ってことだよ。ね?」

まだ赤い顔の誠が慌てたように何度も頷く。

「ごめん。オレ、うまく喋れなくて。思ったこと、うまく言葉にできなくて、ごめん、ママ。」

考えてみれば誠はまだ中学生なのだ。しかも一番難しい年頃の男の子だ。突然の母親の失聴に、本人と同じくらい、もしかすると、まりこ以上に戸惑い、現実を受け入れられずに混乱しているのかもしれない。

「なんで謝るの?ママ、嬉しいよ。ママでいいのね?」

照れくさそうに、しかし誤解のしようがないくらいはっきりと、大きく頷く。

「当たり前じゃん。だって、パパが来たって仕方ないよ。・・・あ、今度の『仕方ない』は、えっと、ママの方がずっと学校のこととか、オレの事とか、わかってるって、そういう意味だよ。」

嫌がるので実行には移さなかったが、心の中で、まりこは誠を力いっぱい抱きしめた。

「それから、派遣も頼まないでほしいんだ。やっぱり、成績知られたくないし。」

「大丈夫だよ。リオちゃんはまだ、懇談の派遣には来られないって言ってたもん。」

「・・・うるさいな。」

ますます顔を赤める兄を見て、弥生がケラケラ笑っている。

「オレ、字、書くの苦手だから、パパに頼んである。今日持って帰ってくれる。」

「お兄ちゃん、またまたイエローカード。そんな言い方だと要約できないよ。主語がオレ、述語が頼んだ。それはいいけど、何を頼んだのかがちっともわからないよ~。」

「いちいちうるさいなあ。パパが帰ればわかるよ。」

その、誠一に頼んで持ち帰ってもらったノートパソコンが、今、誠の膝にのっている。
 

連ドラ復活 その6

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 5月 3日(火)15時10分20秒
  夏休みが近づくと嫌でもやってくるのが三者懇談だ。

「ねえリオちゃん、リオちゃんが懇談にきてくれないかな~。」

まりこの娘、弥生がそんなことを言い出したのにはわけがある。ゴッドマザー遠山宅で開かれる夏祭りの準備や火曜日限定ランチのおかげで、まりこはそれまで以上に青い空のメンバーと過ごす時間が増えていた。それに伴い、弥生もサークルのメンバーに馴染みつつある。未来の要約筆記者候補として向学熱心な弥生は高齢の難聴者から孫のように可愛がられていたし、現役で活躍する筆記者からも青い空の将来を託す人材として期待をかけられている。

「うーん。ノートテイクの派遣、しかも一人で任せてもらえるっていうのは、残念だけど私にはまだ無理だと思うなあ。」

要約筆記を少しかじった人の多くは、スクリーンに書いた文字が映し出されるOHPではできないが、
ノートテイクなら自分にもやれる、と思いがちだ。しかしそれは大きな間違いで、ノートテイクの方が
より技量を必要とする。OHPなら聞き間違いや誤字をチームのメンバーに訂正してもらえたり、文章の意味がきちんと伝わるように補筆してもらえたりするが、ノートテイクとなると全てを一人でこなさなければならないからだ。

「う~ん、そうか~。イヤだな~。」

リオは弥生の解いた問題に赤マルをつけていた手を止めた。

「懇談に派遣がつくのが嫌なの?」

「ううん。そうじゃない。家庭教師をしてくれているリオちゃんなら平気。だけど、他の人に、成績とか、学校での様子とか、知られちゃうのがちょっと恥ずかしいな~って。」

それはリオにも理解できる。弥生の学力を既に知っているリオでなくても、見ず知らずの第三者が派遣されてくるのなら、まだ平気なのだろう。しかし、いつも親しくしている人に望まないプライベートを知られるのは、あまり楽しいことではない。

「でも要約筆記者には守秘義務があるよ。」

「しゅひ・・・? なにそれ?」

「現場で知ったことは誰にも話さない、秘密にしますってこと。」

「へえ~。そうか。そういう約束があるんだ。でも、やっぱり筆記者さんには知られちゃう~。」

弥生の成績なら恥ずかしがることもなさそうだが、そう簡単に割り切れる問題でもないことはリオにもわかる。

「う~ん、どうしよう~。」

頭を抱えて悩む弥生にリオが言った。

「あのね、やっちゃん。恥ずかしいって気持ちをママに説明するつもりなら、きちんと、絶対にママが
誤解をしないように話さないといけないよ。」

「え?」

何を言われたのかよくわからない弥生は、思い切り首を傾げる。そんな弥生の目をじっと見ながら、リオは慎重に言葉を選びながら続けた。

「やっちゃんの言葉が足りなかったりすると、ママは自分のせいだと・・・やっちゃんの恥ずかしいって気持ちを、ママが要約筆記を必要としていることを、人に、友だちとかに、知られるのが恥ずかしいんだって、そんなふうに思っちゃうかもしれないからね。」

「なにそれ?!」

弥生は本気で驚いたようだ。そんなことは思いつきもしなかったのだろう。

「ママだけじゃくて、大人はね、言葉の裏を、言葉以外の余計なことを、いろいろ考えちゃうものなの。それで、時には子ども以上に、くよくよしちゃうこともあるの。だから・・・、ね?」

しばし呆然としていた弥生は、大きな溜息をつき、やや青ざめた顔ながらも力強く頷いた。

「わかった。気をつける。リオちゃん、教えてくれてありがとう。」

リオは立ち上がり、弥生の側に行くとそっと両腕にその幼い身体を抱きしめた。歳のわりにはとても利発でしっかりしている弥生。けれどその小さな心の中には様々な思いが入り乱れているに違いない。弥生は無言で、しかし言葉よりも雄弁に、リオの腕に両手でしがみついてきた。そんな弥生がリオにはいじらしくてならなかった。

しかし。

弥生はまた、リオに負けず劣らず前向きで、しかも行動力のある女の子だった。

「リオちゃん以外のサークルの人に成績を知られるのは、すっごく恥ずかしくて嫌だから。だから、成績がバレちゃう今度の懇談には、派遣は頼まないでほしいの。その代わり・・・」

弥生は担任の先生に直談判して、弥生に関するコメントは、まりこが読んでわかるように前もって文章にしてもらう約束をとりつけてきた。それでも足りない部分は「青い空」の特別予備軍である弥生自身がノートテイクすると宣言し、そのせいで時間がかかって順番を待つ級友に迷惑がかかることのないよう、懇談日を最終日の最終時間に設定してもらったのだった。

 

連ドラ復活 その5

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 4月24日(日)16時12分22秒
  季節が夏に向かう中、日々の変化は少しずつ、しかし確実に現れてきた。リオ達「青い空」は月3回の火曜日の例会の他、公的機関や個人からの派遣依頼をこなしていた。例会のない週でも、なんとなく自然と恵美子の家にあつまり、ランチやお茶を楽しむようになっている。それぞれが手作りの弁当を持ってきたりコンビニで買ってきたりしていたのだが

「台所もあるのだから、どうせならできたてのものを食べたら?」

というゴッドマザーの有り難い申し出に従い、いつしか例会のない火曜日は料理教室のような雰囲気となっていた。しかもメンバー男性陣を中心とした自家菜園部隊がその日の朝に季節の野菜を収穫してくるし、米も農家のメンバーの供出、おまけに恵美子のご主人、遠山医師の釣り仲間だった近所の人が釣りたての魚を持ってきてくれることもあるという贅沢さだ。

「主人もそうだったけど、男の人って、大漁だと嬉しくて全部持って帰ってきてしまうのね。でも奥さんに怒られちゃうのよ。冷蔵庫の許容範囲を超えてるって。私もさんざんモンクを言ったものだわ。」

これら鮮度抜群の魚を鮮やかにさばいてみせたのが、まりこだった。

「すっっっごぉ~い!板前さんみたい!!!」

魚は切り身をスーパーで買うもの、と思っていたリオの目の前で、刺し身用、焼き魚用、煮付け用と
次から次へと切り分けていく。干物用に作った開きは、遠山医師愛用の品であったネットの中に整然と並べ、風通しのよい庭の軒先に吊るしてしまった。

「実家は漁師町だったので。だからお嫁入り道具に包丁も一揃い持ってるのよ。でも仕事が忙しくて。本当に久しぶりに、こんなにたくさんの魚をおろしたわ。何年もしてなかったけど、こういうのって覚えているものねえ。」

「八尾さん、なんでもできるんですねえ。すごいなあ。」

リオが何もできなさすぎなのだが、心優しい「青い空」の年長者たちは苦笑しながらも暖かい目でみてくれている。それはリオが、何事によらず、たとえ今はできなくても、できるようになろうと努力することを怠らないからだ。

「けど八尾さん、お料理も上手だし、小料理屋とか、できるんじゃない?」

「おっ。ええな。八尾さんの店ができたら、ワシ、毎日行くで。」

「火曜日の例会の前だけでも昼ごはん、ここで作ってもらえたらありがたいなあ。」

「おお、それもよろしいな。ここで飯食えたら、福祉会館まではすぐやし。」

「食材は提供するので、どうですか?」

まりこがリオのノートテイクを見ている間に、他の筆記者も話に加わる。

「私たちも会館の近くに安くて美味しいお店があれば嬉しいけど。でも光熱費もかかるでしょう?」

「それにゴミも出るしねえ。恵美子ママの迷惑にならない?」

圧倒的多数を占める主婦の意見は、あくまでシビアで現実的だ。

「じゃあ、会員制・・・っていうか、会費制にするのはどうですか?」

リオの意見に皆が耳を傾ける。

「え~っと、とりあえず、テストケースってことで。1ヶ月、火曜日限定ランチ、やってみません?」

「そうねえ。続くかどうかは別として、おもしろいかもしれない。」

「会費はどのくらいにするの?一人一食100円くらいかな?」

「それだと八尾さんへのお礼は出ないよ。光熱費ギリギリってところじゃない?」

ノートテイクを読み終わったまりこは、思わぬ成り行きに目を丸くしながら答えた。

「いえ、私もどうせ自分の食事は必要ですし。」

「でも、用事がある時とか、八尾さん一人に負担をかけるのは悪いよ。」

「だから。だからね、八尾さんはチーフということで「青い空」の難聴者でも健聴者でも、もちろん男性でも、時間のある人、協力してもいいよって人が、当番を決めて作るっていうの、どうでしょう?」

全員が顔を見合わせ、そして頷いた。

「おもしろそう!」

この、ノリの良さが「青い空」の特徴である。

「ママ、やってみてもいいですか?」

それまで静かに皆を見守っていた恵美子が満面の笑みで答えた。

「もちろん。私に協力できることがあれば何でも言ってちょうだい。」


 

要約筆記がつきます

 投稿者:たまき  投稿日:2011年 4月21日(木)20時25分50秒
  『奈良県に「障害者差別禁止条例」を作ろう!学習会 IN 大和郡山市』

★日時★ 4月23日(土)13:30~16:30

★場所★ 大和郡山市 市民交流館  3階大会議室

★講師★ 佐藤 聡氏(メインストリーム協会事務局長)

★主催★ 奈良県に障害者差別禁止条例の制定をめざす会

参加費 無料
 

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