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「あの・・・」
八尾がそっと右手を上げて発言を求めた。麻耶が「どうぞ」と手で合図する。
「このサークルは要約筆記のサークルだということですが、みんな聞こえる人ばかりなんでしょうか。私のような、聞こえにくい人はおられるんですか?」
「はい。いらっしゃいますよ。今日も三人、参加しておられます。八尾さんはサークルのこと、どうやってお知りになったんですか?」
「娘が・・・小学生なんですど、近所のスーパーで、このサークルのポスターを見て、教えてくれたんです。ここに行ってみればって。」
「ああ、これですね。あのスーパーでは大きく引き伸ばして掲示してくれたので目に付きやすかったんでしょうね。よかった。」
そういって麻耶が取り出したのはA4サイズのカラーコピーだった。一番上に『聞こえない事で悩んでいませんか』と一際大きな文字が躍っている。
「うちのサークルは県内でも若い・・・平均年齢ではなくて、創立年が、ですよ。歴史の浅いサークルなんです。設立したのも市内の中途失聴者・・・えっと、それまで聞こえていたのに聞こえなくなった人の事をこう呼んでいるんですけど、その方たちが市に強く働きかけたからなんです。ですからサークルには要約筆記者と共に、中途失聴者も初めから会員として在籍しています。」
「ポスターには、聞こえない人同士で情報を交換したり気兼ねなくお喋りを楽しめる場、と書かれてありましたけど?」
「はい。今前でやっているのは要約筆記の学習ですが、例会の後半はメンバーが持ち寄ったお菓子とお茶をいただきながら、座談会のような形になります。」
「あ、それで。いろんなカップがずら〜っと並んでいるんですね。」
リオは部屋の隅に置かれた机の上に、色とりどりのマグカップが並んでいるのを指差した。
「そうです。小山さん、目ざといですね。あのカップ、形が同じだけど柄が全く違う物でしょ?サークルで先生を招いて、なんていうのかな、絵付け?みんなでシールのような物を張って、それを焼き付けて、マイカップを作ったんです。そういうお楽しみ企画もありますよ。」
ノートテイクの文字を追っていた八尾が、再び質問する。
「例会の前半、学習の間、聞こえない人は何をしているんですか?」
「前半の学習の時はスクリーンを見てもらっています。要約筆記者は聞こえますから、耳と文字の両方で情報を判断することができますよね。少々文章がおかしくても内容は解るんです。でも聞こえない人に読んでもらって解ってもらえるかどうか。それはやはり当事者にチェックしてもらうのが一番です。内容だけでなく、見やすい画面になっているかもチェックしてもらって、意見を出してもらっています。時に厳しい意見も出ますよ。」
「それはつまり、要約筆記を利用する私たち当事者が、自分達の見やすい情報保障をしてもらえるように筆記者を育てている、ということでしょうか。」
麻耶が大きく頷く。
「その通りです。」
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